yuya yagira
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「全てがすっきりした」柳楽優弥、30歳のターニングポイント

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model: yuya yagira
photography: taro hirayama
styling: masaaki ida
hair & make up: asako satori
edit & text: manaha hosoda

Portraits/

俳優・柳楽優弥が30歳になった。もうそんな大人になったのか、あれまだそんな若かったのか、きっと人それぞれの”柳楽”像があるだろう。柳楽のスクリーンデビューは、言わずもがな是枝裕和監督の『誰も知らない』(2004)だ。当時、柳楽は14歳。そして、初主演作にして日本人で初となるカンヌ国際映画祭の最優秀男優賞を受賞。これは史上最年少の記録となり、いまだに破られていない。急に大海原へと投げ出された少年はその後、幸か不幸か、その半生のほとんどを俳優という職業に捧げることになる。

30歳を迎えた柳楽は今一体、何を考え、見つめているのか。これまでの集大成として満を持して発表されたアニバーサリーブック『やぎら本』では、あまり見ることのなかった自然体の姿を収めた写真群から是枝監督、Quentin Tarantino (クエンティン・タランティーノ) 監督との対談、親交の深い同世代の俳優たちとの鼎談までを収録。俳優として、そしてひとりの人間として、柳楽の魅力が凝縮された1冊だ。今回TFPでは、3回にわたってお届けしたファッションシューティングとともに、『やぎら本』にかけた想いから今後の展望まで話を聞いた。

「全てがすっきりした」柳楽優弥、30歳のターニングポイント

『やぎら本』表紙

―『やぎら本』出版おめでとうございます!30歳という大きな節目を迎えた2020年、新型コロナウィルスのパンデミックをはじめ大きな出来事がたくさんありました。柳楽さんにとって今のところ2020年はどんな年ですか?

オリンピックも延期になって、本当にすごい時代に生きてますよね。自粛期間中は、料理を始めたこともあり、意外と充実していました。『やぎら本』の発売が、(新型コロナウィルスのために)延期になったことは残念ですが、逆にそれがいい方向に進めばいいなと思っています。

―アニバーサリーブックの構想はいつからあったんですか?

1年くらい前ですかね。30歳を記念してアニバーサリーブックを作ろうという話がでました。実はタイムカプセルが好きで、10代の頃に書いた未来の僕へ宛てた手紙があるんですけど、それが30歳の自分に向けて書かれていたものだったんです。埋めてもすぐ見ちゃうんですけど、好きなんですよ(笑)。この本ならではの企画が盛り込まれています。

―2019年はニューヨークに留学されていたとか。

はい、3ヶ月ほど。アニバーサリーブックとは関係なく、時々仕事で戻ってきたりしながら、語学を勉強していました。10代の頃、ロサンゼルスに短期留学したこともあるんですが、今回は、ニューヨークを選びました。ニューヨークで書いた日記が収録されているページもあります。

―ニューヨークはどうでしたか?

アニバーサリーブックで撮影していただいたフォトグラファーのTAKAYさんに、現地で色々な人を紹介していただいて、レストランでお手伝いのインターンなども経験させてもらいました。英語を話さなければいけない環境に身を置けて、とてもいい経験になりました。滞在中は、セントラルパークに歩いて行ったこともありました。短期留学だったこともあって、ニューヨークにいられる間にとにかく勉強しなきゃという思いで、ひたすら勉強していました。

―全く日本での生活とは違いますよね。普通少しのんびりしちゃいそうですけど、結構ストイックですね。

そうなんですよ!なので、日記がすごく面白い内容になっています。「よし、まわりの環境は整った。あとは宿題を教えてくれる人を探そう」とか、機械みたいな口調になってしまっていたりして。(笑)是非読んでもらいたいです。

―日記は普段から書いてるんですか?

こういう貴重な経験をした時や撮影で海外ロケに行った時には、書くようにしています。今回の本を作るにあたって見返してみると、僕は文章を書くことが好きなんだということに気づかされました。『やぎら本』には、モンゴルで書いた日記も載っているんですが、日本・モンゴル・フランス合作映画『ターコイズの空の下で』の撮影で3週間ぐらいゲル生活をしていた時に書かれたもので、さらにストイックな内容になっています。

―ニューヨークとモンゴルじゃ全く違いますよね。

モンゴルに行くのは、初めてでした。撮影中、寒くなってきたらウォッカを飲むんです。初めて経験することばかりで、今になって日記を読み返してみると、当時、不安だらけだったことを思い出しました。それでも、大自然が綺麗で圧倒されました。

―アニバーサリーブックには台湾で撮影したページもありますし、かなりワールドワイドな内容ですよね。

そうなんです。内容がてんこ盛りになっています。台湾には舞台挨拶で行くことが多いのですが、この本の撮影のために昨年訪れました。『ターコイズの空の下で』がドイツの映画祭で賞をもらえたこともあり、昨年は海外に行く機会が多くあったのですが、仕事で海外に行く機会があることは嬉しいですね。小籠包が好きなので、台湾へ行くと、いつもタイミングを見計らっては小籠包チャージしています(笑)。

『やぎら本』より

―写真集には、是枝監督との対談もありましたね。以前、TFPで『万引き家族』公開時にインタビューさせていただいた際、役者の自然な姿を引き出すため、『誰も知らない』でも子供たちを見て、台詞やシーンを修正していった、という話がありました。他の監督とは違う現場だったと思いますが、是枝監督との撮影で学んだことはありますか?

当時から、台本がない状態での撮影がとても楽しいと感じていました。『ターコイズの空の下で』の撮影でも、KENTARO監督が撮影中にカメラ脇からセリフを指示してくれるという方法だったんです。その撮影の時に、是枝監督の『誰も知らない』での演出方法が、好きなんだと改めて思ったんですよ。勿論、セリフを覚えることは絶対にできなければならないことなんですが、僕は最初からそうだったので、あまり決めすぎないやり方が自分に合ってるんだと思います。それは是枝監督から学んだことですね。

―是枝監督との対談の感想も聞かせてください。監督と会うのは久しぶりでしたか?

そうですね。連絡は取り合ったりしています。『やぎら本』では、タランティーノ監督とも対談をさせていただきました。2人の監督への共通の質問として、“主演俳優に望むものは何か”を聞いてみたんですが、お二人の答えが全然違っていて。是枝監督は、リズムを重要視するとおっしゃっていたのですが、今の自分にとってそれは必要な言葉だったので、今回のタイミングで対談できてよかったです。

―一方、タランティーノ監督の答えは?

アニバーサリーブックで是非読んでもらいたいところですが、主演俳優は自分がトップだという自覚をしっかり持って、振る舞うべきだとおっしゃっていました。すごくアメリカらしいですよね。やっぱり見た目のパフォーマンスが重要だと。

―タランティーノ監督は、『誰も知らない』がカンヌ国際映画祭で受賞した際の審査委員長だったんですよね。

そうなんです。ただ、僕は授賞式の時、学校の試験で帰らなければならなかったので、直接会うことはなかったんですが、今回の企画をきっかけにようやくお会いすることができました。直接お会いしたことがなかったのに、「大きくなったね」と言っていただいて、とても不思議な感覚でした。当時は、まだ小さかったこともあって、タランティーノ監督の作品を観たことがなかったんですが、その後たくさん観てきました。こうしてお会いできたことは貴重な経験になりました。

―『誰も知らない』にまつわる2人の監督と今一度会ってみて、いかがでしたか?

全てがすっきりしましたね。俳優を始めるきっかけになった是枝監督、そして最優秀主演男優賞に選んでくれたタランティーノ監督と、これまでのことを話すことができましたし、今後に向けての会話もできました。30歳という節目にお2人と会えたことで、自分の中でいい意味で仕切り直すことができました。過去の自分の出来事、価値観を捨ててみて、いいものを見たりいい人と出会ったりして、また新しい価値観を学んでいきたいなと思っています。

―ご自身の人生におけるターニングポイントはやっぱり『誰も知らない』になりますか?

普通の中学生がいきなりフランスで評価されるという意味では、とにかくついていくのが大変な部分もありましたが、どうにかこうにかやってきました。その後、蜷川幸雄さんが舞台に選んでくださったりなど、ターニングポイントとなる機会が節々であったことは運が良かったと思っています。僕なりの生き方をしてきたからこそ、そこから得たものを自分なりのやり方で、ファンの方や観てくれる人に届けられるような俳優になりたい。そして、いい作品を届けられるように頑張りたいです。俳優をやっていて、いい作品ができて良かったと言っていただけることが一番嬉しいですね。

―『やぎら本』ではありのままの柳楽さんが収められていますが、カメラの前に立つ時のお気持ちは、演技の時とは違ったものでしたか?

そうですね。長年俳優を続けてきて、ずっと私生活はさらけ出さないほうがいいと思ってたのですが、最近になって別に何を隠す必要があるんだと思ってしまって。子供の時から応援してくれてる人達や、ここ数年でファンになってくれた人達にも、今までの自分をまとめた作品で素の自分を見ていただけたらと思ったんです。演技とは違いますが、ものを作るという感覚としての楽しさは一緒です。俳優として映画に参加している時の楽しさとこの1冊を作っている時に感じた、作品が少しずつできあがっていくという感覚は、「あぁやっぱり物作りが好きなんだな」と感じました。

『やぎら本』より

―アニバーサリーブックを作るにあたって、ご自身の素というものについて改めて考えたりましたか?

僕は何が好きなんだろうってずっと考えています。最近は、キャンプやアクティブなことが好きです。アニバーサリーブックには、プライベート写真のコーナーもあります。プライベートでは乗馬に行くこともあります。

―自分が思い描いていた30歳像はありましたか?

すでに世界を飛び回って、英語で演技をして、ハリウッドスターになってる予定だったんですけど、今少し遅れてるので……もっとペースを上げなきゃ(笑)。というのは冗談で、いい作品に巡り会えるように努力していきたいですね。

―今のご自身には満足していますか?

全然満足できていないですね。ですが、最近思ったのが、自分をちゃんと肯定したいということ。そういう意味でも、ちゃんとできたと思える時には自分を褒めるようにしています。自粛期間中に改めて、なんで自分はこういうところで悩んでしまうんだろうと考えてみたのですが、ストイックになりすぎて自分を追い詰めすぎず、自分を褒めてあげるということも少しずつ取り入れていきたいと思いました。

―是非、次回は40歳で『やぎら本2』を期待してます!憧れの男性像はありますか?

昔からディカプリオが大好きなんです。彼は40歳でアカデミー賞を受賞しているので、憧れています。それと、是枝監督が対談の時に、ポン・ジュノ監督を紹介してくれると言ってくださって、『パラサイト』公開時の来日で直接お会いすることができました。その時にソン・ガンホさんにもお会いできたのですが、お会いする前よりももっと好きになってしまいました。コメディとは違った、ユーモアがあるんだろうなということが伝わってくるんです。圧倒的に演技が面白いんですよね。ユーモアのある人が好きなので、僕もユーモアが持てるようになりたいです。