lemaire
with junko gosho

ルメールを着る人。 vol.2 五所純子

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photography: masahiro sambe
styling, text & edit: manaha hosoda

袖を通せば、すっと肌になじむ。そうしていつの間にか、生活の一部に溶け込んでいく LEMAIRE (ルメール) の服。着る人のことを一番に考えた服づくりだからこそ、それぞれの個性が服の表情を変化させる。

今回お届するのは、性別も年齢も異なる日本のクリエイター4名がまとう LEMAIRE。彼らが日常を過ごしている場所で、気に入ったルックを選んでもらった。

第2回に登場するのは、ドラッグと女性たちの多様な関係をルポ+文学として描いた一冊『薬を食う女たち』を2021年6月に発表した文筆家の五所純子。コロナ禍で慣れ親しんだ東京から離れることを決意し、京都へ移住。今はプロジェクト毎に都市間を行き来する生活を送る。

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ルメールを着る人。 vol.2 五所純子

ドレス ¥51,000/LEMAIRE (ルメール)、ブーツ *本人私物

「あんなにストレンジな魅力のある都市ってない。でも、コロナ禍でめまぐるしく変化する渋谷の風景に追いつけなくなりました。野生化したインコの群れが低空飛行していた時期は好きでしたけどね」と語る彼女の京都の新居は確かに、東京とは違うペースで時間が、たおやかに流れていく。鴨川や植物園といった自宅近くの散歩コースを案内する伸びやかなその姿に、LEMAIRE のドレスがよく似合う。ゆったりとしたシルエットから身体のラインへとそっと寄り添うハイネックのコットンドレスは、シンプルなデザインだからこそ細部に宿る LEMAIRE の美学が際立つ一枚。「マスタード」と名付けられたニュアンスカラーが、自宅でのくつろいだ時間にも自然と調和し、着る女性のあるがままの美しさやしなやかさを引き立てる。

まるで指を押し当てたように有機的な曲線を描くピアス ¥37,000/LEMAIRE (ルメール)

──大分県出身とのことですが、大学から東京へ?

田舎を出たかったんです。ただでさえ閉塞感が強い上に、インターネットが普及する前の田舎は情報が少なくて、たぶん蜘蛛の糸にすがるような思いで書店に通ってました。毎月届く『STUDIO VOICE (スタジオ・ボイス)』や『流行通信』、『high fashion (ハイファッション)』といった雑誌に触れていたんですけど、そこに載っているほとんどが東京のこと。自分が生きていけるとしたら東京しかないと思い込んだのかもしれません。文学部に入りましたが、何を勉強したかと聞かれると、難しい。だって大学の4年間って何もしないための時間だったと思うんです。私は自分より後から世界にやってきた人たちにも、あの無為で無目的でよくわからない時間を過ごしてほしい気がします。だから高い学費や学生ローンみたいな奨学金など、今の若い人を取り巻く状況には憤りをおぼえます。

──大学で何か文筆家を目指すきっかけがあったのでしょうか。

何かになりたい、と思ったことが一度もないんですよね。職業選択や自己実現という発想に欠けてました。すごく消極的な言い方をすると、成り行きです。私は大学にろくすっぽ通ってなかったんですけど、この人の話は聞きたいと思える人の講義には出ていて、そこで私の文章をおぼえてくれていた講師が、ある雑誌に書いてみないかと誘ってくれたのがきっかけです。そこから数珠つなぎで書く場所を渡り歩いている、という感じでしょうか。映画や文学をはじめカルチャー全般について、批評とも創作ともエッセイともつかない文章を。幼い頃から、文章を書くことだけは、まるで時間がなくなったみたいに熱中していましたね。私にとっては、好きでも嫌いでもなく、苦痛でも快楽でもなく、放っておいてもやってしまうのが書くことなんだと思います。

──そこからご自身にとって初となる単著『薬を食う女たち』が生まれたんですね。

もとは雑誌の連載で、それがなければこの本は成立していないので、やっぱり与えられた機会ではありました。自分は雑誌やパンフレットに書き散らしているのが向いている気がしていたのですが、人からは早く創作を書くべきだとか、早く一冊にまとめなさいと言われていて。でも、それは自分には大それたことというか、妙に敬虔な気持ちがあって、なかなかできませんでした。与えられた機会に自分の熱気が乗り入れて、やっと『薬を食う女たち』というかたちになりました。題材が薬物依存にある/あった女性たちだったので、既存のノンフィクションによくある文体で書くと、彼女たちを裁くような叙述になりやすいと考えました。彼女たちの言葉と、観察する立場の私の言葉が、対立構造になってしまう。どうしたらそこを壊して書けるのか、もっと別の文体や書法を自分なりに編み出したいという思いが、この本にはありました。

──今も制作の最中とお伺いしましたが、現在取り組まれているプロジェクトについても教えてください。

ずっと頭にあるのは自作についてですが、コロナの影響でストップしていたプロジェクトが急に再開して、慌てふためいているところです。いちはらアート×ミックスという地方芸術祭で、11月19日から12月26日まで、私は旧白鳥保育所の調理室を会場にして、「FOOD COURT」というタイトルで食の記憶や変化にまつわるテキストやオブジェを展示します。また、キュレーターの田中みゆきさんのお誘いで、「音で観るダンス」のワークインプログレスに参加しています。視覚に障害のある人たちに音で視覚情報を補助する「音声ガイド」がありますが、それを起点にして、視覚だけに依らない身体表現の鑑賞を探るプロジェクトです。今回はダンサーの康本雅子さんが出演するステージで、私はテキストと朗読を担当します。12月に横浜の Dance Base Yokohama、3月に城崎国際アートセンターで公演する予定です。