open the door to a new world of scents vol.6 Lemon

【香料連載】 第6回 レモン

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【香料連載】 第6回 レモン

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photography: So Mitsuya
text: AYANA
edit: miwa goroku

フレグランスを構成する<香料>を軸に、ファッションフレグランスからニッチなメゾンフレグランスまで、気になる香りをピックアップ & アーカイブしていく本連載。ビューティライターの AYANA が香りの魅力を紐解きます。ヴィジュアルは、独自のデジタルコラージュで注目を集める写真家・三ツ谷想が担当。6回目のテーマは「レモン」。たとえば料理に添えられたカットレモンように、主役ではないけれど、あると断然いい。そんな揺るぎない個性を備えたレモンの魅力に迫ります。

HERETIC PARFUM (左): クリーンなレモンの奥に眠るイランイランやパチョリによるセンシュアリティ。GOUTAL(右): 閃光のようなレモンの香りに陶酔する、ブランドを代表する名香

 

よく言われることですが、香りのみを表現する特定の形容詞は驚くほど少ないのです。甘い、苦味のある、クールな、ロマンティックな、重さのある、まろやかな、挑発的な、フレッシュな、高貴な。これらの香調を表現する文言はいずれも、視覚や味覚など他の感覚において使われる形容詞です。

香りは目に見えず音も聞こえず、触ることもできないもの。その曖昧な実像をイメージするには、他の感覚のサポートが必要、ということなのかもしれません。しかし香りの世界は非常に繊細かつ微妙でもあり、「ローズのロマンティックな香り」「カレーのスパイシーな香り」「オレンジの甘くみずみずしい香り」と表現されたところで、それを聞いた人がまったく同一の香りを想像するかといわれると怪しいものです。

Maison Margiela Fragrances: 陽光眩しいシチリア島の風景。レモン、ライム、コリアンダー、ホワイトムスクが織りなす、レモンの木陰で吸い込む爽やかな風

しかしレモンだけは、まどろっこしい形容詞がなくとも、誰もがぴったりと同じ香りを思い浮かべる気がするのです。酸っぱくてさわやかで、ほのかな苦味とごくごくわずかな甘味があって。あそこまで揺るぎない個性を放ちながら、あらゆる食べものや飲みものと相性がよく、それでいてほとんどの場合において主役になることはありません。メインキャラの個性を引き立てていくその手腕はお見事で、世界各国の料理、スイーツ、数多のジャンルで求められる稀有な存在です。

OLFACTIVE STUDIO(左): ワサビやバンブー、青草のなかにレモンを忍ばせた野生と洗練が溶け合うジャングル。NOBILE 1942(右): レモンとローズブーケによる優雅なコンポジション

フレグランスにおいても、レモンの「誰からも好かれる」個性は健在。レモン (というよりもシトラス全般) は香りが非常に軽く、トップノートでフレッシュに主張したあとはすっと姿を消していきます。そんな性質も手伝って、メンズライクな香りにも、センシュアルな香りにも、もちろんみずみずしい香りにも、スタッフクレジットにレモン氏の姿を見ることは多く、いつもきっちりと自分の仕事を全うされています。

そして、料理の場合と同様に、レモンがフレグランスの主役を張るケースはかなり少ないといっていいでしょう。だからこそ、レモンの名を冠したフレグランスに出合うと、強烈にその個性を知りたくなるのです。