anna of the north
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どんな人たちに自分は囲まれていたいか。ノルウェー発のSSW、アナ・オブ・ザ・ノースがアーティストである理由

anna of the north

photography: michi nakano
interview & text: riku ogawa
styling: maiko shibukawa

Portraits/

雪国では家に籠る時間が長く、それ故に自身と向き合う良質な音楽が生まれやすいとされてきた。だがそれも今となっては昔の話。インターネットの発達により24時間356日、自宅にいても外界との繋がりを深めることが可能になった。それでも雪国、特に北欧から優れたアーティストが輩出され続けているのは相も変わらず、2020年代という新しいディケードの幕が開けてからは、そのスピードがより加速しているように感じる。これは、自宅待機が強いられたパンデミック、そして、諸外国と比べてジェンダー平等が当然の社会という背景が少なからず影響しているかもしれない。

今回インタビューを敢行したシンガーソングライターの Anna of the North (アナ・オブ・ザ・ノース) は、そんな北欧3カ国であるノルウェー出身の Anna Lotterud (アナ・ロッテルード) が手掛けるソロ・プロジェクトだ。9月25日に東京・渋谷で行われた公演のために来日していた彼女に、日本では初となる対面インタビューを実施。限られた時間でのインタビューとはなってしまったが、アーティストになった経緯から昨年リリースした『Crazy Life』、ノルウェーの人権問題、Tyler, The Creator (タイラー・ザ・クリエイター)とのコラボまでを語ってもらった。

どんな人たちに自分は囲まれていたいか。ノルウェー発のSSW、アナ・オブ・ザ・ノースがアーティストである理由

—まずは、昨夜の初来日公演お疲れ様です。ボルテージが高まりすぎた結果、両膝から血を流すハプニングもありましたが、率直にいかがでしたか?

とにかく観客のエネルギーに驚きましたね。まだ日本には24時間ほどしかいないんですが、ライブの前後に東京の街を歩き回ってみたらオシャレでクールな人ばかりで、街も(ライブに)似たエネルギーに満ちていると感じました。それに、私が好きなニューヨークと同じように、生活感がありつつカルチャーも根付いていて素敵な街という印象です。

—ライブ後には、Cher (シェール) の「Believe」を流して、客席でオーディエンスと共にダンスタイムに興じていましたね。あれは恒例イベントなのでしょうか?

そうですね。人とダンスをするのが好きなんですけど、その点で「Believe」は完璧。カバーもしています。

—そもそも来日自体が初だそうですが、こんな暑いとは想像していましたか?

ノルウェーは寒すぎるから、むしろ大丈夫(笑)。本当は、日本公演が終わったらすぐに香港公演のため中国に向かう予定だったんですが、会場の問題でキャンセルになってしまい、その分少しだけ日本に長くいられることになったんです。今日と明日で東京を思い切り楽しむつもりで、買い物に行こうと思っています。

—クリエイターやアーティストの多くは、旅行や仕事で初めて訪れる国が創作物に影響を与えると言いますが、日本からも得られるものはありそうですか?

もちろん。昨夜会った人たちはみんなが敬意を持って接してくれたし、日本人は良いバイブスで生活しているのが伝わってくるので、それを楽しんでいます(笑)。

—旅行から派生して、3rd アルバム『Crazy Life』(2022年11月リリース)は自身が経験してきた旅がひとつのテーマとのことでしたが、改めて見つめ直して思うことはありますか?

あるものと距離をとった時に、それが違って見えてくることってありますよね。アルバムをリリースしてから時間がそこまで経っていないから作品との距離はまだ近く、もっと年老いた時にどう感じるかは気になります。あと、パンデミックによる制約のある生活が、毎日のようにループする人生という意味合いも込めていたんですが、つい最近は自分がこのループから抜け出したような感じがしていて、快適ですね。アルバム自体は、朝起きて夜寝るような日常生活のルーティーンのように、繰り返し聞けるような流れを意識しました。

—もうひとつ旅行関係の質問をさせてください。学生時代にオーストラリアのメルボルンに留学されていましたが、北欧からオセアニア地域に渡る人はあまり多くないと思っていて、どうしてメルボルンを留学先に選ばれたんでしょうか?

確かに全然いませんでした。ただ、交換留学の候補先にオーストラリアがあったんです。2時間もあれば帰れてしまうような近場の国ではなくて、全く違う環境で、孤独になれて、逃げ道のない、できるだけ遠いところへ行きたくて。実際、コンフォートゾーンを抜け出して自分と向き合う時間を強制的に作り出せる環境は、アーティストとして正解でしたね。

—ただ、当初はアーティストになることが留学の目的ではなかったんですよね?

グラフィックデザインを学ぶためでした。小さい頃からギターを弾いていたので、とりあえず持って渡豪して、「1000回も再生されたら上出来かな!」くらいのテンションで SoundCloud (サウンドクラウド) に音源をアップロードし始めたんです。いま振り返ると、「世界はこんなにも違うのか」ということを学べるいい機会でもありました。結構あっさりしているデザインが多い北欧の街に対して、オーストラリアはサインやライトが所狭しとあったんです。それと、女性を上から目線で見る男の人が大勢いて、ノルウェーだったら絶対にあり得ないことなので驚きました。

—ノルウェーは諸外国と比較して女性の人権が保たれているイメージがありますが、それは日々の生活で感じ、音楽活動にも影響を与えていると思いますか?

両親の教育は男女分け隔てなく自由で、周りに「女性だから」とジャッジされることもない環境だったので、他の国に比べると相当良いと思います……。それでも、やっぱり50/50ではありません。男性の方が給料が高かったり、ノルウェーの音楽フェスに出演するアーティストの70%近くが男性だったり、見直すべき点は多いです。政治的な話をしたいわけではありませんが、私も友達もアメリカの MeToo 運動などとは無縁な環境にいたので、ノルウェーで女性として生まれたことはすごく恵まれていることだと分かっています。生まれてくる国は選べず、どこで生まれたかは人格形成に大きく関わってきますが、友達は選ぶことができますよね?「どういった人たちに自分は囲まれていたいのか」ということを考えて生きることが大事だと思います。

—貴重なお話ありがとうございます。話を戻すと、アーティスト活動をスタートしたオーストラリアからノルウェーに拠点を戻したのは、単に留学期間の問題でしょうか?

本当は留学期間が終わってもオーストラリアで暮らしたかったんですが、夏休みにノルウェーに戻ったタイミングでちょっとした外交問題が発生してしまい、その関係で拠点を変えざるを得なかったんです。

—なるほど。あともう少し質問させてください。僕は、Tyler, The Creator との楽曲「Boredom」と「911 / Mr. Lonely」(共に2017年発表)であなたの存在を知りましたが、彼とコラボレーションするというのは望めば叶うものではありません。活動初期だったにもかかわらず、どのような手立てを打ったのでしょうか?

2015年に Tyler がノルウェーの音楽フェス「Øyafestivalen (オイヤ・フェスティバル)」に出演した際、初めて会って、連絡先を交換しました。それから、しばらくコンタクトを取り続けていて、ちょうど彼がその頃アルバム『Flower boy』の制作中だったんです。それで「いくつかのボーカルを担当してほしい」と言われたので、すぐに「イエス!」って(笑)。「なぜ私を起用してくれたの?」と聞いたことがないので、なんでコラボしてくれたのかは未だに分かりませんが、私の声に何かを感じ取ってくれたんでしょう。

—最後に、アーティスト名の由来だけ教えてください。

(南半球に位置する)メルボルンにいた時、みんな遠い北半球のノルウェーから来た私のことを“Anna from Norway”って呼んでいて(笑)。そのニックネームが愛らしくて、それをもじってアーティスト名にしました。