haruka ayase
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「せっかく生まれてきたんだから、この日々を楽しもう」 俳優・綾瀬はるかの揺るがないポジティビティ

haruka ayase

model: haruka ayase
photography: masahiro sambe
styling: mana yamamoto
hair & make up: akemi nakano
interview: mayu sakazaki

Portraits/

ラブストーリーにアクション、ファンタジーや時代劇にいたるまで、いつも物語をつき動かす強いキャラクターを演じてきた綾瀬はるか。非日常的なフィクションの中でも、どこかに現実味を感じさせる彼女の表現力は、映像作品において欠かせない存在になっている。8月11日に公開される映画『リボルバー・リリー』では、大正時代を舞台に激しいガンアクションにも挑戦した。近年、そんな強い女性像を演じることが増えている綾瀬はるかにとって、強さとはどういうものなのだろうか。「色々なことが起こる日々のなかで、落ち込むこともある。でも、そういう経験を経て、最終地点がポジティブな方向ならそれでいいと思うんです」。傷つかないことじゃなく、傷ついても前を向けることが強さ。デビューから20年以上が経ち、より自分の軸が明確になったという彼女は、まっすぐな表情で質問に答えてくれた。

「せっかく生まれてきたんだから、この日々を楽しもう」 俳優・綾瀬はるかの揺るがないポジティビティ

—『リボルバー・リリー』で演じた⼩曾根百合という女性は、1924年の東京を舞台に陸軍から追われる元諜報員という複雑なキャラクター。この役にどんなふうに取り組みましたか?

特殊な訓練を受けた元スパイという役なので、アクションはもちろん、まずはリボルバーに慣れることから始めました。手もとを見ずに弾入れをしたり、プロが使うように自然と格好良く銃を扱えるよう練習したり。キャラクターとしては、過去に色々なものを背負っていて、半分死に足を突っ込んでいるような女性なんです。生きる希望を失っていて、いつでも死ねるという覚悟があるから、そういう意味では強い人。クールで、肝っ玉が据わっているというか。

—大きな喪失感を抱えている人ですよね。

でも本当は優しくて、愛情深い女性でもあるんです。そういう感じが伝わるように、例えば声のトーンや抑揚をおさえて、感情を出さずに淡々と静かに喋るとか、そういうことは監督とも話し合いました。ただ、表面的にどう見せるかというよりは、その人がどういう精神で生きてるかっていう心の機微みたいなものを大事にしています。

—行定勲監督と綾瀬さんというと、映画デビュー作でもある『JUSTICE』がとても印象深いです。今回また一緒に作品づくりをするというのは、どんな気持ちでしたか。

20年ぐらいお会いしてなかったので、嬉しさと懐かしさが入り混じったような感覚でした。すごく若い頃に出会っているのもあって、ちょっと気恥ずかしさもあり(笑)。でも、監督は私が「もうちょっとこうした方がいいような気がするんです」と意見を言うと、それを尊重してくれる方。現場では「どうやったら演じやすくなるか」ということを主軸に、すごく臨機応変に考えてくださっていて、そういう意味でもいい現場だったなって思います。

©2023「リボルバー・リリー」フィルムパートナーズ

—「史上最強のダークヒロイン」と形容される⼩曾根百合は、ジェームズ・ボンドやニキータを彷彿とさせる、リアリティを超えた存在。彼女を演じる面白さはどんなところでしょうか。

普段経験できないアクションができるのは、やっぱり楽しいです。海外の作品でも特殊工作員とか潜入ものとか、非日常的なストーリーが好きだったりするので、最初に『リボルバー・リリー』のお話を聞いたときは「面白そう!」ってワクワクしました。アクションって頭から足の先まで全身を使って表現するから、動物的な感覚で動けるし、表現の幅が広がるのが面白いです。

—『リボルバー・リリー』ではドレスを着た状態で銃を片手にアクションをするという、さらに特殊な状況ですよね。

そうですね。ドレスでのアクションは初めてだったので、それもすごく新鮮でした。戦いに行くのに、腕がむき出しの状態ってなかなかないじゃないですか。怪我をしやすい状況でもあるので、そこをどうアクションで表現するか工夫しているんです。例えば寝技を減らしたり、スカートでも映える動きに変えたりとか、何度も話し合って作っていきました。

—それって身体能力の高さや感覚だけでできるものではなく、努力の積み重ねが必要ですよね。作品に向けて準備したことはありましたか?

まず動ける体幹と体力づくりをしないといけないので、アクションの準備をしていく大変さっていうのはもちろんありました。動きを自分のものにしていても、やっぱり相手も役者さんなので、一間遅れただけで怪我につながることもある。そういう緊張感の中で、何も考えなくてもお互いが自然に動けるまで、訓練を積み重ねています。準備が大変なぶん、本番でそれができた瞬間はアドレナリンがぶわっと出て、気持ちいいんですよね。脳も身体もすごく疲労するので、部活の試合のあとみたいな感じで、家に帰ったらバタンって倒れてます(笑)。

—それだけ疲労しても、俳優として「アクションをやりたい」という思いがありますか?

いや、アクションがやりたいっていうよりも、面白そうな作品だったら何でも挑戦したいっていう感じです。どこかのスパイだとか、身体に何か埋め込まれてるとか(笑)、非日常なものはワクワクしますけど、例えばラブコメでも自分が惹かれるものがあればやりたいです。

—『リボルバー・リリー』では、戦う相手がすべて男性キャラクターです。それに対し、綾瀬はるかさん、シシド・カフカさん、古川琴音さん演じる女性キャラクターたちが立ち向かっていく。こういった作品を通してどんなことを感じましたか?

やっぱり女性が強くいることは大事だなと思いました。とくに『リボルバー・リリー』で描かれる時代は、今よりさらに過酷ですよね。私の祖母は広島で原爆を経験しているので、「戦争なんか起こさんように、女性がしっかりせなダメなんよ。女性の力で戦争を起こさんいうことをせなダメよ」と言っていて、それはすごく記憶に残っています。

—強さにも色々なものがありますよね。綾瀬さんが思う「強さ」ってどういうものですか?

日常のなかで色々なことが起きるけれど、「それを自分がどう解釈してポジティブな最終地点に持っていけるか」っていうのは大事にしているかもしれません。「この経験はこのためにあったのかな」と考えるようにしてみたり。落ち込むことがあっても、最終的にポジティブに捉えることのできる強さが自分にあれば、それでいいと思うんです。

—昔に比べて「自分のここが強くなったな」と思うことは?

う~ん、どうなんだろう、あるのかな。でも、色々な選択肢があるなかで、「自分の軸はここだな」っていうのはだんだん明確になっている気はします。でも、本当にシンプルなんですよ。「せっかく生まれてきたんだったら、楽しんだ方がいいよね」みたいな、それぐらいのことなんです。それ以外のことは大体ゆらゆらしてますから(笑)。

—さっきお祖母さんの話をされていましたが、周りの女性から受ける影響も大きいですか。

ああ、そうですね。おばあちゃんがよく「なるようにしかならんけえ」みたいなことを言ってて、それは深い言葉だなと思って聞いていました。今96歳なんですけど、その年齢まで自分が生きてるとも思っていなかったみたいだし、「周りはみんな死んでしもうた」とつぶやいてることもあって。自分で選んでいるようで、結局はなるようにしかならない。それはいい意味で、私自身にもストンと落ちる部分があるんです。

—年齢を重ねることで、期待されることや責任も大きくなっていって、少し動きづらくなることもありますよね。変化のなかで自分らしくいるためには、どうしていますか。

やっぱり「できて当たり前」というシーンは増えてくるので、あまり完ぺきを目指しすぎると苦しくなるっていうのはありますね。自分で自分にプレッシャーをかけてもいいお芝居はできないので、「そもそも何もないんだから、7割できたらいいじゃん」と思うようにしています。「リラックスしてるときが一番いい試合ができる」とか「テストのときが一番いい」とかよく言いますけど、それって欲が出てないからだと思うんですよね。もっといい演技をしようと思いすぎると緊張してしまうので、いつでもフラットにいられたらいいなって。

—綾瀬さんには、「自分が納得するまでやる」という頑固さもあるのかなと感じていました。

あ、それもありますね。とくにアクションだと、練習で積み重ねている時間が長いぶん「いや私たちもっとできるよね?」みたいな感じになったりします(笑)。台本を読んだときにすごく感動して心が揺さぶられたシーンがあったら、自分の表現する感情もできるだけそこに到達させたい。撮影の状況や色々な理由で、気持ちがそこまでいききらないことがあると、「もうちょっと頑張りたい!」という頑固さが出てきます。

—デビューから23年が経っていますが、実感はありますか?

ないです、感覚的には17年くらいです(笑)。

—年齢で区切る必要はないですが、40代、50代に向けて「こんなふうになっていきたいな」と思うイメージはありますか。

色々な経験に慣れてきて当たり前になってしまうと、喜びが少なくなっていくので、それはもったいないなと思うんです。だから、今できることも当たり前に思うのではなく、「これができるのはすごい!」って、ちゃんと目を向けてあげるのが大事なのかな。だから毎作品、初心者のような気持ちでやってるんですよ。「どうやったら緊張しなくなりますか?」って先輩に聞いているくらい、本当に今でもずっとドキドキするんです(笑)。でも、緊張を上手く反動に変えれば、自然とパワーが出てくる。いつまでも初心を持って、それを糧にしていきたいですね。