hana sugisaki
hana sugisaki

女優・杉咲花インタビュー

ドレス¥184,000、REDValentino (レッド ヴァレンティノ ) | Photo by Tetsuo Kashiwada

hana sugisaki

photography: tetsuo kashiwada
text: mayu sakazaki

Portraits/

昨年、ドラマ『花のち晴れ~花男 Next Season~』のヒロインを小気味よく演じる姿が印象的だった女優・杉咲花。今年は打って変わって、『十二人の死にたい子どもたち』のアンリ、NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリンピック噺~』のシマ、『楽園』の紡と、シリアスな役柄が続いた。自分の共感や理解だけでは形作ることのできないキャラクターに出会ったことで、彼女自身の表現方法も少しずつ変わりはじめている。自分を客観的に見つめ、ときに内省的になりすぎてしまうこともあるという彼女が、「自分を信じる」ことで開いた扉。22歳になった杉咲花に、10月18日公開の最新作『楽園』について、そして自分自身の変化について語ってもらった。

女優・杉咲花インタビュー

―実際に起こった事件をもとにした吉田修一さんの『犯罪小説集』を原作に、美しい田園風景が広がる田舎町で撮影された瀬々敬久監督の映画『楽園』。杉咲さんは12年前に失踪した少女・愛華と事件直前まで一緒にいたことで、罪悪感を抱えたまま生きている紡 (つむぎ) という女性を演じていますね。この役にどう取り組んでいきましたか。

今まででいちばん難しい役でした。台本を読んで、物語の雰囲気やキャラクターの心情は理解できても、完全に「わかった」とは最後まで思えなかったんです。そういう経験は今回が初めてで、自分の中にある程度イメージを持った状態で現場に行っても、いざ本番となると頭が真っ白になってしまって。ここまで想像と違う感情になることはこれまでなかったので、「本当にこれで大丈夫なのかな」と最初はすごく不安でした。やっぱり、ある程度「わかった」状態で現場に行かなくてはいけないんだという考えが自分の中にあったので……。でも、紡の台詞のひとつに「わからなくたっていい」という言葉があって。その影響もあり、私もわからないまま現場に行ってみよう、初めての試みをしてみようって思ったら、予想してない感情がどんどん出てきて、「わからないことはダメなことじゃないんだ」と思えたんです。それはこの作品を通して学べたことです。

―そういった杉咲さんの心情に対して、瀬々さんはどういった演出をされたんでしょうか。

具体的な言葉というよりも、抽象的な単語を20回くらい投げかけられる感じだったと思います。その意味をわかってはいても、「どうすればいいんだろう」と思ってしまって、難しかったです。でも、これは後から聞いた話なのですが、監督は自分の演出に対して聞かれたときに、「もう祈るしかないんだ」っておっしゃったそうなんです。それを聞いたときにやっと自分の中でつながったというか、あれは祈りだったんだなと思って。すごく映画に対して紳士で、瀬々さんらしい向き合い方をされていたんだというのが私にとって新鮮な発見でしたし、自分もそれに一生懸命応えなければという気持ちになりました。

『楽園』

―紡というキャラクターは、それだけ掴むのが難しかった?

まったくわからないということはなかったんです。彼女の過去のトラウマとか、すごく共感できますし、理解もできるはずだと。でも、実際にそれを自分の身体を通して表現しようとすると、ちゃんと共感できていたはずの紡の存在が急に遠いものになっていく感覚がありました。台詞も少なくて余白が多い作品なので、感覚的にはわかっていても、本当にこれでいいのかな? と自問してしまって、難しかったです。でも完成した映画を観て、瀬々さんについていってよかった、頑張ってよかったと思えました。

―私たち観客は、紡を事件に巻き込まれた被害者だと感じたり、かわいそうな女の子というフィルターをかけて見つめてしまう。杉咲さんから見て、紡は本来どんな人だったと思いますか。

紡は決して自分を被害者だとは思っていないと思うので、後悔がすごく大きいのだろうなと感じていました。直前まで愛華ちゃんと一緒にいた人ですから。でも、ラストシーンにたどり着くまでの紡を見ていると、すごく悔しくなりました。どこにもぶつけられない怒りと悲しみと後悔がものすごくある人だからこそ、悔しかったです。

―映画を観ていて印象的だったのは、風景でした。そこに町があって人がいて事件が起こって、ということを考えると、場所はすごく重要な要素だったのかなと思うんです。背景となる土地にどんなことを感じましたか。

そうですね、やっぱり愛華が失踪してしまう「Y字路」はとても印象的でした。クランクインする前に写真をいただいていて、それをずっと見ていたんです。紡にとってはトラウマになっている場所ですし、そういうフィルターを通して見ているからだと思うのですが……なんだか苦しくなりました、あそこにいると。目を閉じて、耳を塞いで、鼻もつまんで、塞ぎ込んで全部閉じてしまいたくなるような。でも、思い出したくない場所のはずなのに、ここにしかいられないんだなっていう居心地の良さみたいなものも、どこかに感じていました。

―撮影中、そういった「場所」に影響を受けることはありましたか?

紡が外に出るシーンはすごく解放感があって嬉しかったです。東京に行くシーンとか、綾野剛さん演じる豪士 (たけし) とリサイクルショップに行ったり、車でシロツメクサがいっぱい咲いてる場所に行くシーンとか。村上虹郎さん演じる幼馴染の広呂 (ひろ)  とのシーンも、唯一の光というか、名前の通りヒーローだなと思っていたくらい (笑)。現場に紡としているのはすごく苦しかったので、そこだけは身体が軽くなるような感覚がありました。

―「解放感」という言葉が出てきたように、やっぱりどこか閉鎖的なムードが描かれていますよね。田舎町の小さなコミュニティの中の、ちょっとした勘違いや入れ違いのせいで、取り返しのつかないことになってしまったり。そういうテーマについて、杉咲さんはどう感じましたか。

学校生活を送っていると、そういうこともあるなと思います。例えば仲良しグループがあって、最初は何も考えずに楽しめていたのに、ちょっとした自分の一言で誰かが傷ついていたり、空気が一瞬で変わったりする。そういうことを感じてしまうと、何かを喋ることに恐怖を覚えて、言葉にする前に一回止まって考えるようになってしまう。もっと素直に何も考えず楽しめたらいいのにと思うのですが、私は性格的にそれができないので、いちいち考えてしまって。そういった経験が学生時代にありましたから、そういう意味でも共感できるところがありました。

―他人の目が気になることも多いですか?

こういった取材もそうですが、SNSでも、自分が思ったことを素直に言ったはずなのに、意外と違う形で伝わってしまうことがあると思うんです。そういうことを気にしているうちに、プライベートでもそうなってしまうのかもしれないです。

―そういうときはどうやって、乗り越えるというか、判断していくんでしょうか。

20歳も超えましたし、ちゃんと自分を信じないとなとか、責任を持たなければいけないなと思います。初めてドラマの主演をやらせていただいたときも、自分がぶれてはいけないんだなと実感しました。でも、本当にこれでいいのかな? と悩むときもやっぱり多いので、そういうときは母親や身近な人に相談します。言葉にするのが得意ではないので、一度文章にしてから考えたりもします。それでもダメなときはもう考えるのをやめて、美味しいご飯を食べてぐっすり寝るんです (笑)。そうすると、気づけばちょっと違う考えになったりします。

ドレス¥184,000、REDValentino (レッド ヴァレンティノ ) |  Photo by Tetsuo Kashiwada

ドレス¥184,000、REDValentino (レッド ヴァレンティノ ) | Photo by Tetsuo Kashiwada

―やっぱり人が人に与える言葉ってすごい力を持っていて、それによってその先が変わってしまうことがあるんだなと、作品を観て感じました。今回の現場で、誰かとの会話の中に記憶に残っている言葉はありますか?

撮影が終わった後の打ち上げのときに、瀬々監督に「私どうでしたか?」と聞いたんです。そしたら、「いや、もうどうでしたとかじゃないんです」と。「撮ってしまったものはしょうがないんだよ」と言われたんです。もちろんその通りなのですが、私はそれを言われたとき「あ、ダメだったんだ」と思って、すごく落ち込んだんです。でも、よくよく考えてみると、確かにそれを聞いたところでもう映画は撮ってしまっているから、仕方ない。私の中で「次に活かしたい」とか、「どう見えていたのか気になる」という思いがあって聞いたことではあったのですが、そうやって聞いている自分の中に、どこか少し媚びるような心があったのかもしれないと、改めて気づいたんです。

―何か言葉をかけてほしかった、という。

はい、やっぱりもう一回ご一緒できたらいいなという思いがあるからこそ、「嫌われたくない」と思ってる自分がいたりして……。そういう自分がすごく嫌になる瞬間があります。だから瀬々監督の言葉も印象的でしたし、そう言われたことで、その瞬間にかけなければいけないという思いが強くなりました。いつも、そのときが最初で最後なんだ、と。嫌われてもいいから、恥ずかしがらずに思いっきりやってみようという気持ちになれたので、その言葉は自分の中で大きかったです。

―作品のテーマによって思いつめてしまったり、考えすぎてしまったり、自信が揺らいでいくこともありますよね。

今まではすごくそういうことが多くて、そうやって自分が苦しくなる方が、よりいい表現ができるのではないかと思っていました。常にそういう状態で過ごして、そのまま現場に入っていくような。でも、そのぶん精神的にも身体的にも負担がすごかったので、なんとかそこから少しでも抜け出せないかな、と思ったときがあったんです。それで、撮影以外の時間はあえて考えるのをやめてプライベートを楽しむ、ということを試してみたのが『楽園』の現場でした。そうやって過ごすことにどこか罪悪感があったり、緊張やプレッシャーもあったんですが、やっぱりそうした方が自分が幸せになれるような気がして、信じてやってみることにしました。

―以前、日々のことを日記に書いているとインタビューで話していましたが、『楽園』の撮影中や、最近も書いていましたか?

それが、あんまり書いていなかったんです。多分、撮影中以外はなるべく考えすぎないようにしようとしていたので、その延長線上で書かなくなったのかなと思います。作品と作品を縫って出演しているときも、いったん忘れないと切り換えが難しいときもありました。今思い返すと、慣れないことにドギマギしながらも、とにかく必死だったなと思います。

―杉咲さんは長くキャリアを積んで、やっと20代に入ったばかり。これまでの日々を振り返って思うことはありますか。

10代の頃はもちろん色々と制限されることが多かったので、生き急いでるじゃないですけど、早く20代になりたい、大人になりたいといつも思っていました。だから時間の流れの速さとは逆に、これまでが長かったなと感じることもあります。これからは色んなところに旅行に行きたいな。今は美味しいパエリアを食べるために、スペインに行きたいです (笑)。

ドレス¥184,000、REDValentino (レッド ヴァレンティノ ) |  Photo by Tetsuo Kashiwada

ドレス¥184,000、REDValentino (レッド ヴァレンティノ ) | Photo by Tetsuo Kashiwada

<プロフィール>
杉咲花(すぎさき・はな)
1997年10月2日生まれ、東京都出身の女優。2013年にドラマ「夜行観覧車」での演技が注目を集め、2016年にはNHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」に出演。映画『湯を沸かすほどの熱い愛』では、第40回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞など多くの助演賞や新人賞を受賞した。2018年には「花のち晴れ~花男 Next Season~」で連続テレビドラマ初主演、今年はNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリンピック噺~」、映画『十二人の死にたい子どもたち』、『楽園』など、話題作への出演が続いている。

作品情報
タイトル 楽園
監督 瀬々敬久
出演 綾野剛、杉咲花、村上虹郎、片岡礼子、黒沢あすか
配給 KADOKAWA
制作年 2019年
製作国 日本
上映時間 129分
HP rakuen-movie.jp
©︎2019「楽園」製作委員会
10月18日(金)全国公開