Rok Hwang
Rok Hwang

「意味と目的を与える洋服づくりを。」働く女性たちへ、リスペクトを捧げ続けるロク・ ファン

Rok Hwang

photography: asuka ito
interview & text: saki shibata

Portraits/

Phoebe Philo (フィービー・ファイロ) 時代の Celine (セリーヌ) で経験を積み、2018年にはLVMHプライズで特別賞を受賞した ROKH (ロク) のデザイナー、Rok Hwang (ロク・ファン) は当時の受賞コメントで「現代に生きる女性たちのワードローブの中で組み合わせて自由に着てもらうことを願っている」と語っていた。今もなお、その信念は揺ぐことがない。自由なカッティングで作る女性らしいフォルム、デコルテの見せ方、スリッドやプリーツの動きでさりげなく脚の美しさを引き立てるデザイン……。そこからは女性ならではの美しさと力強さを追求した Rok Hwang ならではの審美眼を感じることができる。なぜ彼はそこまで働く女性たちのために洋服を作り続けるのか。今回 CONVERSE ADDICT (コンバース アディクト) とのコラボレーションを機に3年ぶりの来日を果たした彼に、コロナ禍で見えた女性の内面と外見の変化や今後のビジョンについて話を聞いた。

「意味と目的を与える洋服づくりを。」働く女性たちへ、リスペクトを捧げ続けるロク・ ファン

ROKH 2023年春夏コレクション

—まず、今回の2023SSコレクションについて。テーマに「The irrational view(不合理な視点)」を選んだ理由について教えていただけますか?

常に女性のために現実的な視点を通してデザインをしていますが、抽象的なテーマを用いるのも好きです。「The irrational view」で考えたときに洋服自体の魅力を改めて感じることができ、今回このタイトルをつけました。王道な美しさの上に、女性が日常生活や仕事で着ないものや、曲がっていたり捻られたカットを用いることで新たな美しさを体現できたように感じています。

—会場も湾曲した作りでしたね。そこも今回のテーマに合わせて?

はい。デザインする上で「メリハリ」をとても大切にしています。しっかりとした直線のラインの洋服に湾曲なカットを加えているんですが、会場も同じように椅子の配置を湾曲にしてリンクさせました。また ROKH はベージュなどニュートラルな色合いを持つブランドなのでそれに合わせ、少し暖かみのあるトーンの会場を探したんです。ショーの時間帯も、黄色がかり暖かいトーンの日差しがかかる時間を選び、神秘的なショーを作り上げることができました。

—今回のコレクションでもトレンチコートを再解釈し、新たなディテールを構築していました。デザインする上で特にどんな部分に力を入れたのでしょうか。

毎シーズン新しい試みを行っているのですが、特に今シーズンは実用性のある要素を女性的なフォルムへ変容させる努力をしました。注目してもらいたいのはプリーツ要素を融合したトレンチコートです。一つのアイテムに大きさや形の異なるプリーツを加えました。例えば、左側には細いプリーツを施し、真ん中には少しフラットで丸みのあるものを施すなど、同じ服に4~5種類ほどのプリーツを加えました。ディテールに注目するとトレンチ素材を使った様々なテクニックが用いられています。一目見ただけではわかりづらいですが、細かいところまで着目してもらうとその技術に気づいてもらえると思います。

—なぜプリーツに注目したのでしょうか。

今シーズンは洋服の“動き”にフォーカスしたいという直感的考えから、自然とプリーツという発想に辿り着きました。

—コレクションのメインカラーはベージュですが、ブルーに特別惹かれました。アクセントカラーに「ブルー」を選んだのはなぜですか?

私は密かに“色”が大好きなんです。今シーズンは特に春夏コレクションだったということもあり、その中でもブルーのベージュとのコントラストに惹かれました。ベージュの暖かいトーンは冬や秋の印象が強いので、コバルトブルーやイブクラインブルーなど強さのある色味をアクセントとして加え、視覚的に爽やかな要素を加えたかったのです。またブルー系の色以外にも、マゼンタやマルーンのような赤系の色も加え、ブルーは爽やかでポップなアクセントである中、赤みのあるカラーを通して深みと美しいエレガンスさを演出しました。それがブルーと良いコントラストとなり、コレクション全体にハーモニーをもたらしたと感じます。

—今回のコレクションを通して、人間は不合理(論理的でなく完璧でない)であるというメッセージも感じました。そういった意味合いが込められている部分はありますか。

人間は誰しも現実と非現実に考える能力が共存しているものだと思っています。現実と非現実のコントラストに対して“違和感”を感じることが私の洋服づくりにおいて大切なこと。ファッションは時に物事に意味や目的を与える役割を持ち、時にアートという形を取る。ROKH というブランドはこの二つの良いバランスを見つけ、着る人に届けることを目標としています。

—これまでにも“ワーキング・ウーマン”や“働く女性たち”に向けて洋服を作っているとよくお話しされています。ここ数年、コロナ禍を経て世界状況の変化がありました。常に人間観察をしながら次のデザインを考えているとのことですが、Rok さんから見てここ数年で女性の内面と外見に変化を感じられましたか。

コロナウイルスがひろがり始めた頃は、仕事環境が代わりマスク生活が始まり、私自身含め皆自分を守るように露出を控えた洋服を着ていましたよね。自分を隠し、遠慮がちなファッションだと感じる時期はありました。ですが現在はほぼコロナ前の状態に戻ったように思えます。人と人、そしてファッションと人の距離が復活し、男性はまた違いますが、女性は以前のようなエレガントでフォーマルな装いが戻ってきた気がします。

—なぜそこまで働く女性のための洋服を追求できるのでしょうか。

はっきりとわかりませんが、おそらく自分のキャリアが関係していると思います。当時通っていたセントラル・セント・マーチンズの教授も女性で、その後の最初のキャリアが当時 Celine のクリエイティブ・ディレクター、Phoebe Philo でした。彼女たちは常に、“なぜこれを着るのか”、“なぜこのデザインにするのか”という女性だからこそ思いつく現実的な発想を教えてくれたのです。彼女たちと全ての女性たちにリスペクトを込めて、女性のための様々な用途や着こなしについて常に考えています。

—今回の来日の理由でもある CONVERSE ADDICT とのコラボレーションについて。この企画はどちらからのオファーだったのでしょうか?

まず CONVERSE (コンバース) 側からオファーをもらいましたが、私もずっと CONVERSE の中でも特にアイコンである「チャックテイラー」のモデルに携わりたいと思っていたんです。相思相愛の出会いだなと感じました。

—今シーズンのコレクションでもエナメル素材のようなロングコートとコンバースを合わせていましたが、それが Rok さんの思う女性の理想的なスタイルなのでしょうか?

まず今回の CONVERSE のデザインについて話すと、「チャックテイラー」は子供の頃から大好きなモデルでした。その昔懐かしい気持ちや思い出などそれぞれの要素を複数のブロックとして組み立てるようにデザインしました。ダブルソールを制作し、そこからアッパー素材のレイヤーに取り掛かりました。靴の中に4つのレイヤーがあり、様々な種類とトーンのスエードやレザーなどパズルのように組み立て構築された細かなレイヤーを楽しめる設計にたどり着きました。ベースの色はホワイトですが、異なるシェードのホワイトやグレーが用いてヴィンテージにも見えるニュートラルトーンで作ろうと決めていました。自然なフェードを新しい方法で取り入れることができたと思っています。質問に戻りますが、コレクションで発表したこのコートは一般的なフォーマルコートよりもしっかりとした作りになっています。テクニカルファブリックを用いてキルティング製法で制作しました。さらにレイヤーを追加し遊び心あふれるデザインにして、それが CONVERSE をデザインした過程とリンクし、双方の“遊び心”に繋げたいという思いから、このルックが完成しました。とても気に入ってるルックの一つです。

−Dover Street Market (ドーバー ストリート マーケット、以下DSM)との限定コラボレーションに登場したパッチワークのアイテムについても教えてください。

DSMとの限定コレクションも CONVERSE と同じく、私のパーソナルなタッチや趣味の要素が加えられています。昔からヴィンテージアイテムやグラフィックを集めるのが好きで、ずっと創作もしたいと思っていました。自分自身でヴィンテージグラフィックを制作したり、ユニークで遊び心のある作品を描いたりもしているんです。幼い頃からアメリカに住んでいて、古いグラフィックなどを集めていました。自分の人生と深く関わりのある「若さ」と「ノスタルジックな気持ち」というコンセプトを大好きなDSMでも活かす良い機会だと感じました。とてもワクワクして臨めたプロジェクトでした。

—ビジュアルアートはアーティストの Coco Capitán (ココ・カピタン) が手掛けましたが、お二人は昔から交流があったのですか?

そうですね。昔に彼女の展示会で初めて会い、コレクションについて話し合ったのが出会いでした。そして今回のコレクションの制作をしていた時、遊び心を交えながらも美しい物を制作する彼女が適任だと感じました。それで私から彼女にアプローチし、一緒にイメージを組み立てました。彼女にパズルの話や子供時代の話をすると、私の名前が Rok (ロク) なので、名前にちなんで“石(ロック)”を使ったら面白いのではないかと提案してきたのです。それで、彼女は自分でスペインを歩き回り、完璧な石を探したらしいです。この石の上に CONVERSE がバランスよく積み上げられた作品は、デジタルでのデザインでなく、本当にリアルに組み立てた作品なんですよ。コロナのロックダウン期間に制作が行われたため、彼女は一人で石を積み上げてくれました。少し時間がかかってしまったんじゃないですかね。

—今回は3年ぶりの来日ですが、現在の日本や街並みにどのような印象を持ちましたか?

今回は1日しか過ごせないですが、東京はいつも変わらず、綺麗で居心地が良いです。美しく歓迎されてしてくれる感覚があります。日本の料理や文化は変わらず、とても素晴らしいですね。

—これからも働く女性のためにこれからも洋服を作り続け、どのような挑戦をしたいと考えますか?また、今後の目標を教えてください。

私にとって挑戦することはいつも一緒で、意味と目的を与える洋服を作り続けたいです。女性を魅力的に見せて、着た本人に力を与えるような洋服を作りたい。それが私のゴールです。その中でファッションやアートを通して常に新しいストーリーに挑戦し、常に“自分がありのままに楽しい”と感じることを忘れずにしていきたいと思っています。