black midi
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「この音が好きだから鳴らしたい。まあ、時々やりすぎちゃうんだけど」ロンドン生まれの超新星 black midi の探究心

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photography: domu
interview & text: hiroyoshi tomite

Portraits/

先日行われた black midi (ブラック・ミディ) の来日公演。2019年の初来日から3年が経ち、ようやく実現した今回のショー。この間に彼らは2ndアルバム『Cavalcade』と3rd アルバム『Hellfire』を完成させた。

King Krule (キング・クルール) や Tom Misch (トム・ミッシュ) などを輩出した無償の教育機関であるブリット・スクールで出会った彼らは、音楽的な素地がありながらも、卓越した探求心で様々なジャンルを飲み込んだアバンギャルドなサウンドを突き詰めていった。当然そのユニークすぎる楽曲は音楽ファンの間に瞬く間に広まり、話題の的となっていた。

「この音が好きだから鳴らしたい。まあ、時々やりすぎちゃうんだけど」ロンドン生まれの超新星 black midi の探究心

去る12月4日、東京・渋谷のライブハウス Spotify O-East (オーイースト) で行われた black midi ライブは、1日のうちに2部制ということもあって短い尺であったが、凄まじい演奏だった。

「Suger/Tzu」のイントロと同じボクシング・アナウンサーの Hus Ragip (ハス・ラギップ) によるMCでバンド紹介のアナウンスがなされた後、彼らが“ステージ入場”してから「John L」でフィナーレを飾るまでの70分間。待望したファンの期待が充満するフロアに新旧織り交ぜて楽曲を投下し、まったく飽きさせることなくカオティックな空間を作り上げていった。

タイトに締まったキレッキレの演奏に昂り、一方で時折テンションを緩めるような遊びのあるインプロビゼーション(即興演奏)に唸った。過剰極まりないほど性急なビート、それに呼応する各々の熱量とそれでも破綻することのないコントロールの効いたプレイヤビリティ。まず目を惹いたのが、ドラムの Morgan Simpson (モーガン・シンプソン) の場のテンションを司るような圧倒的なドラム捌きだ。そして時折、摺り足で舞うようなステップを刻みながらギターとヴォーカルで空間の雰囲気を掌握する Geordie Greep (ジョーディ・グリープ)。表情一つ変えずに超絶ベースを弾いたかと思えば、自身が手がけた楽曲ではエレアコを手にパンキッシュに絶唱する Cameron Picton (キャメロン・ピクトン)。彼らが描き出す音世界に文字通り、釘付けになった。文句なしの怪演だった。

とりわけ印象に残ったのは、ラストトラック「John L」の前にプレイされた壮大なスケールのある未発表曲「Magician」。叙情的でパーソナルな心情をジョーディがポエトリーリーディング的に吐露するその様は、スタジアム級のバンドを想起させてくる。圧倒された筆者を含めた観客は終演後5分間程、口をあんぐり開けながら、ただひたすらに拍手を送るほかなかった。

本公演が2022年のワールドツアーの最後のパフォーマンスであり、これから休暇に入ることもあったのだろう。インタビュー当日は、くつろいだ雰囲気だった。ツアーの感想を会話の入口に、異形とでもいうべき楽曲がどう生まれてきたのか。バンドとして次は何を目指しているのか。弱冠23歳のフロントマンであるジョーディ・グリープ(Vo./Gr.)とキャメロン・ピクトン(Ba./Vo.)に話を聞いた。さて、探究心に満ちたロンドンが産んだ早熟の手練れ達は何を語ってくれただろう。

―今回の来日公演の手応えはいかがでしたか?

ジョーディ(以降G):よかったよ。名古屋でオープニングアクトとして演奏してくれたおとぼけビーバーはライヴパフォーマンスも素晴らしかったし、大阪でDJをしてくれた∈Y∋ (アイ) が所属する BOREDOMS (ボアダムス) は自分たちにとって特別なバンド。black midi を結成して活動する上で、最初のインスピレーションを与えてくれた一つのロールモデルだったんだ。だから休暇前の最後のショーで共演して、一緒にツアーを締め括れたのは、エモーショナルで最高だった。

―大阪の公演では「John L」の曲間に Red Hot Chili Peppers (レッド・ホット・チリ・ペッパーズ) の「Can’t Stop」のリフを演奏していたのが、一部ファンの間で話題になっていました。そういう余白はプレイする上で大事な要素なのでしょうか?

キャメロン(以降C):もちろん。だってその方が楽しいからね。毎回まったく同じ演奏をするのは流石にしんどいから(笑)。

G:ツアー中ずっと毎日のように同じ曲をやってると、遊び感覚みたいなものを入れたくなるんだ。そうでないと自分たちが飽きちゃうからね。例えば俳優が同じ舞台講演で演劇をやっていくなかで、舞台上でいきなりハムレットをやっちゃうみたいな(笑)。そういう意味で「Can’t Stop」はハムレット的だといえるんじゃない?

―たしかに!誰もが知る名曲という意味ではそうですね。演奏中にコミュニケーションを取るんですか?

G:モーガンにはマイク付きのイヤモニターがついてて、そこから声が聞こえたりもする。でも基本は演奏を通じてコミュニケーションを取ることの方が多い。「この部分はルーズに。ここはタイトに」とある程度構成を練りながらやってきたんだ。

―3rdアルバム『Hellfire』は激しさに満ちたカオティックなロックアルバムだと思ったのですが、アルバムを通じて描こうとしていた世界観を改めて言語化してもらえますか。

G:全体的に曖昧な雰囲気を作り上げたくて、楽曲ごとにキャラクターとか個別の物語性がある楽曲が並ぶんだけど。それはそれとして、合わさった時に写し鏡で全体像ができる世界観なのかなと思って作った。解釈は人によって様々でもちろんいいんだけど、今回は「死」とか「地獄」とか「殺人」とかそういうダークなキーワードがテーマの作品だったといえるんじゃないかな。

―「Still」や「Eat Men Eat」などキャメロンがリードギターとヴォーカルを取った曲もありますね。これはどのような背景で?

C:ロックダウン中にベースよりもギターを弾く機会が多かったんだよ。ギターで作った曲をみんなに提案して、作り上げていった。自分で作った曲は自分がメインで歌うのが自然だったというだけだよ。

―曲によってイニシアチブを取るメンバーが違うんですか?

G:誰が曲を書いたかにもよるかな。スタジオでセッションしながら作っている時は、チャプターごとに「OK!ここはモーガンが行け!」「ここは俺が引き受ける!いくぜ!」みたいなのを目配せとか言葉でシェアしていくんだ。各々にこういうプレイをしたいみたいなイメージがあるからね。

―インプロビゼーション的にイニシアチブを取るメンバーが変わるのは、ジャズ的ですね。

G&C:(揃って両手を広げてジェスチャーで「どうかな?」の動きをしておどけた様子)

―プログレッシブロックな側面があったり、ジャズやポストパンク的な要素もあったりと色んなリファレンスを楽曲ごとに感じていたのですが。black midi の音楽ジャンルについてどう捉えていますか?

G:流行や特定のジャンルにこだわりはない。「最近このジャンルが流行っているから流用しよう」みたいなコマーシャライズされた意図は一切ないんだ。この音が好きだから鳴らしたい。そんな風に自由にジャンルを意識しないでセッションしていく。とにかく自分達が作っていて「楽しい」「ユニーク」だと感じられることを追求して作品にしたい気持ちがある。まぁ、時々やりすぎちゃうんだけど(笑)。

―変拍子やリズムチェンジなどが1曲の中で行われるような楽曲が多く、いい意味で“過剰性”を持っているのが、black midi の特徴だと思います。そこに関しては自覚的ですか?それともバランスをとった上で今の形に落ち着くのですか?

G:今発表されている楽曲で過剰だと思うなら、スタジオでのオリジナルはもっとすごいことになっているよ(笑)。もっとビザールな感じ。

―ビザールな感じ……。

G:そう。メンバーみんな一切妥協しないから。あれもやりたいこれもやりたいって色んな要素を楽曲に詰め合わせて、何ができるかを一曲ごとに探求している感じ。最後にやりすぎたところを一応削ぎ落としていって、今発表されている楽曲の形になるんだ。

―ライヴパフォーマンスで披露されていたメロウなトラック「Magician」ができた経緯について教えてください。これまでの楽曲とは異なり、パーソナルな心情を吐露するような歌詞や構成が印象的でした。この曲が目指した質感は?

G:実は1年半程前からあった楽曲なんだ。当時は歌詞もなくて、人前で披露するレベルに至っていなかった。9月頃、アメリカツアー中にそろそろ何か新曲を披露したくて、初めてやってみた。歌詞を披露するのが恥ずかしいから、みんなの前で歌わないことが多いんだけど。今回のツアーは逆にチャンスというか。ライブパフォーマンス中に歌詞を付け加えていった。特に後半のセクションはライブで披露してから、どんどんと言葉が足されていってる。ファンの反応もいいし、自分も楽しい。だから日本でもセットリストに加えたんだ。

C:この曲を詰めていくのが、僕らにとって来年の楽しみの一つでもあるんだよ。

G:アルバムの曲はずっと演奏しているので、ほとんど改善の余地もないくらい突き詰めた。新曲は今までの楽曲のトーンと違うし、演奏していて開放感があって楽しい。まだ改善の余地があるからやりがいを感じることができる。自分としてはまだあの曲がいいのか、悪いのかわからないんだけど。

―めちゃくちゃいい曲だと思います。個人的には今の black midi のモードがダイレクトに反映されているのかな、なんて推測しました。来年の活動を通じて目指していきたい、アルバムや新曲群のムードや目指していきたい方向性はどんなものになりそうでしょうか?

G:次のアルバムでは「情熱」とか「愛」とか「ロマンス」みたいなキーワードをテーマに作っていこうと思っていて。今話している「Magician」はそのフィーリングがわかりやすく表出した曲だけど。これから作る楽曲ではもう少しこのテーマを他のアングルを交えて遊びながら追求してみようかなと思ってるよ。

ー楽しみにしています。

G&C:ありがとう!