MACCIU
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「一つの選択の先に無限の可能性が広がる」クリエイター MACCIU がデザインに託すメッセージ

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interview & text: taiyo nagashima

Portraits/

社会が根本的に不安定であるという感覚は、ここ数ヶ月のグローバルな共通項と言えるだろう。世界が大きな混沌に向き合うなかでリリースされることになったナイキ エア ズーム MACCIU By You は、社会のネガティブな側面を見つめるところから着想され、そして足を通す人をポジティブな方向へ導くという強くしなやかな意志を纏っている。いくつもの思索の層が重なり合って生まれた、美しくシンプルなスニーカーに込められた思いについて、コンセプトとデザインを手掛けたクリエイター・MACCIU に尋ねた。

「一つの選択の先に無限の可能性が広がる」クリエイター MACCIU がデザインに託すメッセージ

—ナイキ エア ズーム MACCIU By You は、いくつかのコンセプトが見事に折り重なったシューズです。どういったところから着想したのか教えてください。

まず最初に、ナイキから「平等 (Equality)」というテーマを象徴するスニーカーにしたい、という話があり、2ヶ月間くらい時間をかけてストーリーを構築する作業を行いました。平等ってなんだろう?と考えてみると、そもそも平等というテーマをナイキが掲げるのは、前提として不平等がこの世に存在しているからだ、ということに思い当たりました。

—不平等を感じるような出来事も多くありますね。

そうですね。自分たちを不平等が包み込んでいる、混沌とした世界に包み込まれているという感覚を、フワフワとした素材で表現するという発想がまず生まれました。そこにポジティブな「選択は可能性だ (CHOICE = POSSIBLITY)」という思想をラインで表現したり、ひとつひとつの要素が決まっていきました。ナイキが新しく開発したナイキ エア ズーム タイプというシューズのアウトソールを用いるということは決まっていましたが、アッパーに関しては本当にゼロから自由にやらせてもらいました。出発点はネガティブな視点ですが、このスニーカーを履いた人がパッとクリアに、前向きになってくれたらいいな、と願っています。

©️Nike

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—カラーには日本的な要素も入っています。

自分の中では日本を代表するという意識もあったので、日本古来の伝統的な衣裳「袈裟」の色である「壊色 (えしき)」を用いました。まず、字面が美しいですよね。私は、「Nothing is Permanent」という言葉をずっと大切にしています。形のあるものはいずれ失われる。だからこそ生きることは尊いという考え方です。「壊色」という言葉は、そんな自分の考えとリンクしていました。

—壊色とは、もともとどんな色のことを指していたのでしょうか?

木の皮からとった黄色や、土からとった茶色など、自然である種地味な色が多かったようです。そこには物事への執着を捨てる、っていう思想が込められているそうです。もともとの壊色の中には青はなかったのですが、そのコンセプトを自分の中で解釈して、くすんだトーンの色を選んで採用しています。

—執着を捨てる、という思想を商品に込めるという矛盾、おもしろいですね。

そうですね。矛盾というのはこのシューズのキーワードのひとつになっています。

—自分で好きな色を組み合わせることができる点も魅力です。MACCIU さんのお気に入りの色は?

いろいろ試してみたのですが、グレーが気に入っています。皆さんが選ぶ色を見ていると、自分では考えないような色の組み合わせがあったりしてはっとします。「CHOICE = Possibility」というメッセージを Nike By You の仕組みが伝えてくれているとも言えますね。

MACCIU BY YOU MOVIE

—自分の選択が人生を大きく変えたという実経験をお持ちですか?

何か大きな出来事があったというよりも、私は日々の選択が自分をつくっていると思っています。おおげさなことではなくて、5分寝坊したとか、ちょっと道間違えて遅刻したとか…。遅刻の話ばっかりですね (笑)。そういう小さな選択の積み重ねの先に、無限の可能性がある。小さな選択の集積によって、自分が出来上がっていく。ひとつひとつの選択を大切にしたら、いずれ大きく変わってゆくのかなって。

—もしかして、すごくまじめに生きている?

あ、ぜんぜんそういうわけじゃないですよ ! (笑)。むしろ、できないことがいっぱいあります。できないことは、強みにしていけばいいなって。私はできないことをやらないという選択をしてきたから、今ここにいるんだと思っています。

—どんなことができなかったのでしょう?

複雑な絵は描けないし、モーショングラフィックスもつくれない。自分にできたのはイラストレーターというツールを使って絵を描くということ。できないことを理解して、できることを選択してきたから、今ここにいて、こういうものをつくることができているんですよね。

©️Nike

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—もともと、何かを形にしたいという思いは強く持っていましたか?

それもあまりないんです (笑)。機会を与えてもらってやってきたっていう感覚ですね。あまり執着しないというのが人生のテーマかな、と。

—このシューズのテーマそのものですね。

そうですね。自然にやってきたことが形になったと思っています。

—このシューズを作る上で、履いて欲しい人物を思い描くことはありましたか?

リリースには書かなかったんですけど、Billie Eilish (ビリーアイリッシュ) に履いて欲しいと思っていました。彼女には2020年のポップアイコンとしての魅力があります。人のいろいろな感情を混ぜ込んだ存在ですよね。

—MACCIU さん自身の、ネガティブな現実を受け入れながら、そこにポジティブな意志を持って向き合っていくという姿勢と、Billie Eilish の姿勢は、どこか共通点があるように思えます。

そうかもしれません。否定の言葉から入るのは、くせなんです。「Nothing is Permanent」という言葉は、祖母がずっと言っていて、母に伝わって、そして私が受け継ぎました。「かたちあるものはいつか滅びるし、人生は一回きりだからこそ、たのしみなさい。」そんな風に家族で話していたことをよく覚えています。

—最後に、この複雑で不安定な時代を個人はどう生きていけばいいのか。MACCIU さんの考えを教えてください。

「CHOICE = Possibility」というメッセージと重なりますが、一つの選択の先に無限の可能性が広がっているということを伝えたいです。プロセスに執着せず、新しく訪れる未来のチャンスを選び続けてほしい。過去に囚われることには意味がないから。