Ben Gorham
Ben Gorham

BYREDO (バイレード) クリエイティブディレクター、Ben Gorham (ベン・ゴーラム) インタビュー

Ben Gorham

Portraits/

小さな日本サイズのドアから腰を屈めて部屋に入ってきた。その後私の目の前にいたのは、差し入れのお寿司に目をキラキラとさせながら頬張り、終始にこやかな口調で語る親しみ溢れる一人の男性。そして、「ファッションポストには僕の友人がたくさん載っているのに僕だけ載っていないなんて、ちょっと悲しかったよ。」と私たちを笑わせたかと思った直後、カメラの前に立っていたのは、現職の前はプロのバスケット選手だったことを裏付けるような恵まれた長身、身体を覆うタトゥー、そしてエキゾチックでクールな顔立ちそのすべてから、男女全スタッフを釘付けにさせる鋭いオーラを放つ一人の男性。スウェーデン発のフレグランスブランド「BYREDO (バイレード)」の創業者兼クリエーティブディレクターを務める Ben Gorham (ベン・ゴーラム) だ。

BYREDO (バイレード) クリエイティブディレクター、Ben Gorham (ベン・ゴーラム) インタビュー

Photo by Hiroki Watanabe

Photo by Hiroki Watanabe

小さな日本サイズのドアから腰を屈めて部屋に入ってきた。その後私の目の前にいたのは、差し入れのお寿司に目をキラキラとさせながら頬張り、終始にこやかな口調で語る親しみ溢れる一人の男性。そして、「ファッションポストには僕の友人がたくさん載っているのに僕だけ載っていないなんて、ちょっと悲しかったよ。」と私たちを笑わせたかと思った直後、カメラの前に立っていたのは、現職の前はプロのバスケット選手だったことを裏付けるような恵まれた長身、身体を覆うタトゥー、そしてエキゾチックでクールな顔立ちそのすべてから、男女全スタッフを釘付けにさせる鋭いオーラを放つ一人の男性。スウェーデン発のフレグランスブランド「BYREDO (バイレード)」の創業者兼クリエーティブディレクターを務める Ben Gorham (ベン・ゴーラム) だ。

未知数の魅力を湛える彼に聞かずにはいられなかった、彼の純粋な心に映る日本のこと、自身のこと、そして、BYREDO の今後のこと。

—5年ぶりの来日ということですが、今回の目的はなんですか?

様々なプロジェクトが進行中なんだ。明日は、アイウエアのプロジェクトのために福井県に行ってくるんだ。それと、BYREDO に携わってくれている仲間たちやショップを見て周れるのは本当に嬉しい。 久しぶりに来たけれど、他の国と比べてもやっぱり僕にとって大好きな国の一つなんだ。忙しいけれど、これからは最低でも1年に1度は来たいと思っているよ。あと、楽しみにしていたのは日本食!昨日のディナーはポークの…、そう、トンカツだ、本当に美味しかった! 昨日は寿司をランチに、あとはそばに天ぷらも食べたよ。間違いなく日本食が世界で一番美味しいね。

—最初に日本に来た時の思い出はありますか?

人にとても魅了されたよ。どこに行ってもとても親切だし、礼儀正しく接してくれる。ヨーロッパや若い頃少し住んでいたアメリカとは対照的だよね。ここにいられるだけで、スーパーハッピーだよ。

—2006年にブランドを立ち上げ、その約5年後の2011年に日本に初上陸しました。その時はどのように感じましたか?

まだ香水をメインに作っていた当時、日本にとても関心があったんだ。日本の香水のマーケットは小さかったけれど、きっと日本の人たちはよりオープンな目でブランドについて知ってくれ理解してくれると感じたんだ。ブランドに宿る本質や想いがきっと通じる、そのことの方が大切なんじゃないかって。単なる“香水”以上の何かをね。それが、ブランドの成功につながるということも。鋭い感性があり、ディテールや質の良さをきちんと分かってくれるから、日本は BYREDO にとって完璧なホームだと思っているよ。それに、BYREDO に日本の文化的な一面を取り入れたいと思っていたんだ。丁寧なサービスや質を重んじる日本文化特有のアプローチは、BYREDO が成長していくゆえで欠かせない要素だと思っている。現に、フランスで工場を選ぶ時には、日本の会社 (資生堂) が管理しているところにしたんだ。要するに、フランスにある工場だけど中は日本。日本の社会のようにフランスの従業員たちが働いてくれていて、とてもうまく行っている。もう、日本は BYREDO にとって一部になっていると言えるね。

—初めて日本に来た5年前に、何かインスパイアされた香りはありますか?

ウッド。日本にあるすべての木々からインスピレーションをもらったよ。木と密接に関わっている歴史や伝統のある日本は、スウェーデンと似ているんだ。今あるモダンなインテリアにも、きちんと和のエッセンスがあるし、とても個性的な匂いを感じるよ。世界どこへ行こうとも、良くも悪くもたくさんの匂いがする。一方で日本はスウェーデンのように綺麗な国で、香りはニュートラル。日本にいると木の匂いが僕にはきちんとしてくるよ。もう一つは、庭。寺院の庭のようなね。そこには、僕の大好きな匂いの一つで、香水の材料としても使っている虫もたくさんいる。今回京都にもいくから、いくつか採取してこうかな (笑)

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—鉛筆の香りや、お母様の故郷のインドのションブールの香りなど、記憶にまつわる香りがクリエーションの根底にあると思います。自身の記憶のタイムカプセルをどのように辿っているのですか?

匂いはどこに行こうがどこにいようがずっとそばから離れない。旅に出てても、人に会っていても、仕事場でもね。だから面白いアイディアや香りを見つけたらノートに書く。その場でどんどん肉付けして発展させる時もあれば、時間を決めて座って考える時もある。もちろん、何も思い浮かばない時もあるけどね。ただ、アイディアが降って来たり、印象深い出来事ことがあったりすると、香水を作るための簡単なメモを書くためにとにかく考えるんだ。考えることが鍵。日々、僕たちはいろいろな匂いを嗅ぐけれど、ほとんどの人はそこから考えることまではしないでしょ。もう少し考えてみれば、その匂いをもっと深く理解できたり、新たな発見ができたりするんだ。

—どこで考えることが多いですか?

飛行機での移動中に、シートに座りながらノートを取り出して考えることが多いかな。そこで何も思い浮かばない時は、1年後に (笑)。

—飛行機が一番の仕事場ですね?

そうだね。最近の機内はとても寂しい空間だ。さっき、カプセルって言ってたけど、まさにカプセルの中にいるよう。飛行機の中にロックされると安堵感や孤独感に包まれるんだ。出発地と目的地の2つの場所に挟まって身動き取れない感じも、僕にとってはメンタルプレイスにちょうどいいみたい。

—では、どのようにしてアイディアを得ていますか?

人からかな。「LA TULIPE  (ラ  チューリップ)」を作った時、本来チューリップの香りはこの世に実在しないフィクションの香りなんだけど、僕の頭にあるアイディアを使って他の人にも香りについて考えて欲しかったんだ。フレグランスを作るときには、物語がとても肝心。みんなの心に訴えかけて、少しでも考えるきっかけになるようなフレグランス作りを目指しているよ。人に会ったり、人と話したり、人から学んだりすることは、クリエイティビティの中でも面白いパートなんだ。

—去年ブランド創設10周年を迎えられましたね。おめでとうございます。10年前と比べて、BYREDO のディレクターとして変わったな、と感じることはありますか?

エブリシング!ブランドを始めた当初は、僕自身とてもナイーブな性格だった。香水について何も知らなかったからね。今でも毎日学校にいるようだよ、もちろん生徒としてね。学び続けることは大事だと思っている。賢くなったかはわからないけど、以前よりプロセスについてだいぶ理解できている。これは10年前とは大きく違うね。

—では、反対に10年経っても変わらないことはありますか?

ブランドを始めた理由が、“アイディアを伝える” ことがとても意味のあることに思えたからなんだ。僕にとっても、みんなにとってもね。その思いは何一つ変わってないかな。そして、コマーシャル目的のためだけに商品を作らない、ということも。

—他のフレグランスブランドとの違いはなんですか?

香水以外も手がけているということ。ジャケットやブランケット、2年前にはレザーグッツを、来年はメガネなど、まだまだスペシャルプロジェクトを進めているよ。フレグランス業界はとても古く、家族経営や、訓練や修行を積んでからビジネスしている人がほとんど。僕はなんの経験もなく始めた新参者。僕たちのブランドだけがどこか切り離されている感じがとても気に入っているんだ。新しく誰かを採用する時も、違う業種からの人が多いのも特徴的だね。スーパーの従業員だった人もいるよ。今では、クリエイティブチームの一員さ。重要なのは、その人の個性。業界のラインから外れすぎず、でも自分たちなりの志を持っている、ということが結果としてブランドの個性や魅力となっていると思うよ。

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—あなたと香水を結びつけた調香師の Pierre Wulff (ピエール・ウルフ) との出会いついて詳しく教えてください。

彼は僕の命の恩人、僕よりだいぶ年上なんだけど、今は僕の親友の一人でもある。友人のパーティで知り合ったんだ。彼から聞く調香師の仕事についての話に釘付けになってしまってね、僕があれこれと質問していく中で、香水に興味が湧いて思わず「僕を手伝ってくれない?」ってお願いしたんだ。でも返事は「ノー」。この世に香水はこれ以上いらないから、だって。その後も何言われても喰い下がらないから、 結局手を貸してくれたんだ。彼に会う前は、香水関係の仕事をしようなんて思いもよらなかったのにね。

—世界的に著名な調香師、Olivia Giacobetti (オリヴィア・ ジャコベッティ) と Jerome Epinette (ジェローム・エピネット) とクリエーションを共にしていますが。

Jerome とは一番一緒に仕事をしている。友達で、とてもいい関係なんだ。一つの香水が完成するのに6年、少なくても2、3年かかるから、コミュニケーションは重要。絵や置物、物語やポエムなど、彼らの心に響きそうなものなんでも使って訴えかけるんだ。意思疎通はバッチリだよ、たまに叫び合ったりするけど (笑)。 香水を作っていて、楽しいなと思う時間でもあるよ。

—仕事をしていて何をしている時が楽しいですか?

新しい香水のアイディア出しと、仕上げをしている時かな。終わりが見えてくると、次のプロジェクトが楽しみにで仕方ないんだ。そして、それをお店に並べて、お店に見に行く時も。

—プライベートでは?

山登りや、ランニングにスキーも。それに、2人の娘の父親をフルタイムでやっているよ!ダントツで最も大変な仕事だけどね。

—最後に今後の展望を教えてください。

パリで9月と10月に、ウィメンズのハンドバッグとレザーグッズの大掛かりなプレゼンテーションを控えているよ。そして、お店を数店舗オープンさせたいと思っているんだ。1年半前に、BYREDO の全アイテムを扱うショップの第1店舗目をニューヨークにオープンさせた。だから、他の都市や、もちろん東京にもオープンさせたい。ねえ、どこがいいと思う?

Photo by Hiroki Watanabe

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<プロフィール>
Ben Gorham (ベン・ゴーラム)
BYREDO 創設者、ディレクター。インド人の母とカナダ人の父のもと、スウェーデンに生まれる。父の仕事の関係で、トロント、NY、そしてストックホルムなどさまざまな都市で育つ。ストックホルム美術大学にてファインアートの修士号を取得後、調香師の Pierre Wulff との出会いを機に、“香水の奥深さ” とりわけ、香りと記憶との関係に強く魅せられ、香水の世界に。2006年、鬼才の調香師、Olivia Giacobetti と Jerome Epinette の才識を借りて、自身のアイディアを初めて香水に具現化、香水ブランド「BYREDO」を設立。以来、二人の調香師とともに、自身の私的な記憶や歴史、イマジネーションを香りに表現。そのロジカルかつ独創的なアプローチや、ファッションやアートとの強いつながりでも注目を集めている。BYREDOというのは、BY REDOLENCE (芳香によって) をもじった造語。